システム開発はどんどんAIが担うようになるから、人がいらなくなる。人がいらないとしたら、ITのプロジェクトマネージャー(以下PM)やPMO(Project Management Office:プロジェクトマネジメントオフィス)はいらなくなるのではないか?
そんな声があります。
前提として、ここでいうPM/PMOはこんな仕事をする人のことを指します。
- 計画
- プロジェクト計画や工程計画
- WBS作成
- 管理
- 進捗管理(プロセス設計、収集・集計・分析・報告)
- 品質管理(プロセス設計、標準定義、収集・集計・分析・報告)
- 課題管理(起票・取り回し・状況管理)
- 変更管理(起票・取り回し・状況管理)
- 会議開催、進行、議事録作成
- ドキュメント管理(フォルダ整理や資料配置など)
- ToDo・QA管理
- コスト管理
- ツール・アカウント管理(チャットやチケット管理ツール等の管理)
- 各種連絡調整
- 推進
- 意思決定
- 課題解決
- リスク検知と対策
- チームビルディン

プロジェクトマネジメントファーム「JQ」社内でも、実はそういう声がでました。私自身、生成AIのすごさを目の当たりにして、そういう危惧を抱いたこともありました。
AI駆動開発時代に、本当にPM/PMOは必要なのか?
この問いについて、整理したことを書かせていただきます。
整理に使う2つの観点
PM/PMOが必要かどうかを論じる前に、プロジェクトによって求められる知識やスキル、経験、役割などが変わるため、先に2つの観点を整理します。
1.品質要求の高さ
まず一つ目は、作るものの品質要求が高いかどうかです。ここではミッションクリティカルか、非ミッションクリティカルかで整理します。
- ミッションクリティカル:基幹システムのようにバグがあるとビジネス面で多大な影響が出るもの
- 非ミッションクリティカル:自社ツールやホームページのように多少のバグは許容されるもの
2.プロジェクト規模(=開発規模)
二つ目が、プロジェクトや開発の規模です。ここでは何人月くらいのプロジェクトかで整理します。あくまで例として以下で大きい、小さいを振り分けてみます。
- 大きい規模の例
- 予算規模としては1億以上
- 平均単価150万/月として、総人月は67人月以下
- 要員数は平均7~8人/月
- 期間(※)は9~10カ月
- 小さい規模の例
- 予算規模としては2000万未満
- 平均単価150万/月として、総人月は14人月以下
- 要員数は平均2~3人/月以下
- 期間(※)は5~6カ月以下
※期間は、Claudeで、経済調査会「ソフトウェア開発データリポジトリ」による実証式を用いて計算
先にこの観点で結論をまとめると以下のようになると考えます。

※非ミッションクリティカルで、開発規模が大きいシステムは想定しづらいと考えます。多大なお金をかけて、品質要求低くていいや、とはならないからです。
ケース1:ミッションクリティカルで開発規模が大きいプロジェクト
まず初めに、ミッションクリティカルで、開発規模が大きいプロジェクトについて考えてみたいと思います。
ミッションクリティカルであることが「人」を必要とする
ミッションクリティカルであるということは、つまり、要件や仕様の漏れや認識齟齬があったり、バグが多かったり、デザインがダメダメということが許されないということです。
例えば、基幹システムは当然高い品質が求められますし、スマホアプリであっても顧客企業の戦略上重要であったり、お金が絡むようなシステムの場合、高い品質が求められます。
品質を高くするということは、レビュー・判断・確認をするということでもあります。
AIエージェントを構築して、様々な作業をやらせたとしても、そもそも完璧なものが出てこないというところでレビューが必要で、そして、どうしても人間の判断も必要というところもあります。
- 要件や仕様のレビュー・判断
- コードのレビュー・判断
- デザインのレビュー・判断
- システムの人目による最終確認
これらの作業を人間が行う必要がでてきます。
開発規模の大きさが「人」の数につながる
開発規模が大きくなると、人数も増えていきます。
顧客側の人数が増える
例えば私が最近まで関わっていた、とある基幹システム刷新プロジェクトは10億~20億程度の予算規模のプロジェクトでしたが、顧客側の業務部門が5人程度の体制でした(情シス部門は別にいます)。
このシステムの業務カテゴリが5つありましたので、それぞれのカテゴリごとに要件や仕様を提示したり、レビュー・判断する担当者がいたということになります。
1人がすべての業務を把握しているということは現実としてはありませんので、AIが「情報」としてすべての業務を把握したとしても、業務を知っていて「レビューして判断する」5人は必要、ということになります。
スマホアプリのような顧客接点系のシステムであっても、一定規模になれば(大きいのは大体お金も絡む)、マーケ、商品、情シス、経理などの部署が関わってきます。各部署1〜2人登場するだけで、やはり5人以上にはなってしまいます。
機能数が多いとエンジニアの人数が増える
ミッションクリティカルなシステムでもAIを活用するという動きは実際に出てきています。JQが関わった、また関わっているプロジェクトでも、実装や単体テストはAIにやらせるというプロジェクトが3〜4つあります。
そして現時点ではどんな生成AIもまだ完璧ではないというところから、エンジニアはAIの作成した実装計画のレビューをしたり、どうしてもAIが自律的に解消できないバグを修正したりという作業をしています。
なお当記事の本論とは関係ありませんが、加えて、上流工程からAIに最適化したドキュメントを作っているわけではないため、AIのコード生成の品質が上がらないという問題も起きています。
そして機能数も多い。顧客の人数のところで、例に出した基幹システム刷新プロジェクトの場合、画面だけでも100画面や50帳票などのボリュームがありました。これに内部のバッチや対向システムとのインターフェース系のバッチが加わってきます。
これらのレビューをしないといけないので、結果的にかなりのエンジニアが必要になります。
同プロジェクトではAI活用はしていませんでしたが、チームリーダークラス含めてエンジニアは30人近くいました。
AIを活用している各プロジェクトのエンジニアたちにAI活用をしたことによる生産性向上率を聞いたことがありますが、肌感としては、せいぜい20~30%がいいところということでした。
30人のうち、30%、つまり10人程度が不要になるとしても、20人程度はレビューワーとして残る試算になります。
結論:ミッションクリティカル×規模が大きいプロジェクトではPM/PMOは一定数必要になる
ミッションクリティカルで開発規模が大きい場合、例えば、例で出している10~20億程度の基幹システム刷新プロジェクトの場合、AIエージェントをプロジェクトで活用したとしても、
- 顧客側の業務部門が5人
- 開発側のエンジニアが20人
は必要になります。
これだけ人がいれば、どうしてもマネジメントが必要になります。
予定通り、効率的に作業ができるように計画を立てて、各人の作業状況をウォッチして、課題があれば吸い上げて解決する必要がでてきます。
上記例で行けば、
エンジニアが20人もいれば、開発側のPM/PMOは2~3人は必要になります。
顧客側でもPMOが最低1~2人は必要になると思います。

AI活用によって、プロジェクト全体の人数は減ることになり、PM/PMOも、管理実務のうち、転記作業などの作業らしい作業が減っていきますので、従前ほどは必要なくなるかもしれません。
しかし、これまでの整理のように、ミッションクリティカルで開発規模が大きいと、AIだけで完結するということにはなりえませんので、やはりPM/PMOは一定数必要ということになると思います。
ケース2:ミッションクリティカルで開発規模が小さいプロジェクト
ミッションクリティカルである以上、レビュー・判断・確認をする人が必要というのはケース1のところで整理しました。
では、開発規模が小さいとどうなるでしょうか。
開発規模が小さいとプロジェクトで必要な人の数も減り、結果、PM/PMOも少なくてすむ(いらないわけではない)
開発規模が小さいということは、対象業務のスコープも狭いということです。そして開発する機能数も少ないので、レビューするエンジニアの数も少なくなります。
例えば、以下のような規模と想定してみます。
- 顧客業務部門は1人
- エンジニアは2~3人
この時、PM/PMOは不要でしょうか?
いえ、やはり業務側、開発側と異なるスキルや思考の人にわかれて作業をする以上、そして人数が3人を超える以上、仮にアジャイルで開発する場合においても、作業の優先度を決めて、状況を整理して、課題やリスクがあれば解決するような役回り、つまりPM/PMOが必要になります(呼び方はスクラムマスターになるかもしれませんが)。
規模が小さくてもミッションクリティカルである以上、やはりPM/PMOは少人数にはなりますが、必要ということだと思います。
ケース3:非ミッションクリティカルで開発規模が小さいプロジェクト
非ミッションクリティカル、つまり品質要求が低いプロジェクトというのは、例えば、ちょっとした便利ツール、ツールでなくても部署内や小規模な会社で使う自社システムのような場合、またはそこまで高いデザイン性を求めないウェブサイトなどが該当すると思います。
なお、「品質要求が低い」と書いていますが、これは初期リリース時の品質要求が低いという意味です。最終的にはどんなプロダクトも品質は高くしていきたいものだと思います。
AIを使いこなせるプロダクトマネージャーがいればPM/PMOは不要
このケースの場合、PM/PMOは不要になりえると思います。
これまではベンチャーであっても、SaaSを作るときには、PM/PMOが必要でした。以下のような体制を組んで開発をするので、人数が一定程度いるため、PM/PMOが必要だったのです。
- プロダクトマネージャー
- フロントエンドエンジニア×複数
- バックエンドエンジニア(フルスタック)×複数
- UI/UXデザイナー×複数
弊社も実際に、いくつかのベンチャーのプロダクト開発のPM/PMOをしたことがあります。
しかし、AI駆動開発時代は、こういうシステム・ツールにしたい、こういうウェブサイトにしたいという、想いをもったプロダクトマネージャーが1人いて、その人がAIを使いこなせるとしたら、その人だけで開発が完結します。
ただし、そのプロダクトマネージャーには、エンジニアとしての素養やデザイナーとしての素養が必要になります。
どうしてもAIが解決できない不具合や問題というのは出てきますし、見た目や使いやすさという観点では、利用者理解が必要なので、AIのデザイン提案だけでは品質があがらないということがでてくるからです。
そんなプロダクトマネージャーいるのか?という問題は別の記事として整理してみたいと思います。

PM/PMOが不要になるケースはあるが、全体としては大きくは減らない
IT業界において、AIは確かに地殻変動を起こすものと言えると思います。
しかし、上記の整理のように、ミッションクリティカルかどうかによって、どうしても人は必要になり、規模によってその人数が増えることになります。人がいれば、必ず仕切り役が必要になるので、PM/PMOは必要ということになります。
非ミッションクリティカルで小規模なプロジェクトであれば、プロダクトマネージャー1人で完結するため、PM/PMOは不要になりますが、IT業界の市場全体において、後者のケースの割合がどこまであるかというと、そこまで大きくはないと思います。
つまり、AI駆動開発時代、PM/PMOはこれまでほどはいらなくなるかもしれないが、激減するわけではない、という結論になると考えます。
