「ちゃんと管理しよう」と列を増やした管理シートが、数週間で形骸化する理由

JQ NOTE ベースナレッジ
発生原因分類、影響範囲、優先度、関連チーム、想定工数、初期発生工程、解決方針、対応者、確認者、承認者──。プロジェクト開始時に「分析できたほうがいい」と思って項目を増やしていった結果、20列を超える課題管理台帳ができあがる。これ、現場ではよく見る光景です。

しかし、運用を始めて数週間後に台帳を開いてみると、半分以上の列が空欄。残りの数列だけがちゃんと入力されていて、それ以外は完全に放置されている。誰も見ない、誰も更新しない、誰も気にしない。それが現実です。

私自身、PMO(Project Management Office:プロジェクトマネジメントオフィス)として担当した現場で20以上の列を持つ課題管理台帳を引き継いだことがあります。実際に継続的に入力されていたのは、半分にも満たない。

残りの列は存在しているけれど、誰も見ない、誰も更新しないという状態でした。「分析できる構造を作ったほうがいい」というべき論で項目を増やしすぎた結果、台帳全体がメンテ不能になっていたのです。

この記事では、課題管理台帳の項目を増やすことで起きる破綻と、本当に必要な項目に絞り込んだシンプル台帳の運用について書きます。

監修者・ライター情報

広瀬 浩司

JQ プロジェクトマネジメント事業部 シニアマネージャー

「分類・分析のための項目」を増やす理屈

例えば、発生原因分類の列を設けて「検討漏れ」「技術的要因」「環境要因」「コミュニケーション不足」などに分類する。これによって、複数の課題を分類し、類似課題ごとに対応を考えたり、傾向を分析して根っこを探ることができる。

チーム列を複数用意するのは、情報共有やエスカレーションのため。「どのチームに関係する課題か」を明確にすることで、適切な担当者にスムーズに情報が届き、迅速な対応が可能になる、と考えられている。

管理項目を増やすことで、上記のように管理・分析がしやすくなるという利点があります。データを構造化し、分析可能な状態にしておくことは、プロジェクトマネジメントの基本とも言える。べき論としては、その通りです。

ただし、このアプローチには見落とされがちな問題点があります。

項目が増えることで起きる3つの破綻

起票が「複雑な判断作業」に変わり、登録のハードルが上がる

どの分類にしようか迷いが生じることで、「課題を登録する」という本来シンプルであるべき作業が、複雑な判断を伴う負担の大きい作業になっていきます。列が多いほど、ルールが複雑になり、入力に悩むようになります。

似た課題が分類で分断され、解決の効率が下がる

本当に似た性質のものは同じ課題として束ねられるはずが、分類があるゆえに分けて管理してしまう。これは課題解決の効率を下げる結果につながります。

入力されない項目が増え、まじめな入力者の労力が無駄になる

これが最も深刻な問題です。項目が多くなると、結局使われず入力されなくなる項目が生じ、その項目は最終的に意味のないものになる。すべての課題でしっかり列が埋まっていないと、管理・分析の意味はなくなってしまいます。

結果として、まじめに入力している人がいても、その人は意味のない作業をしていることになる。

ここで知っておくべきは、課題というものの特性です。課題はそもそも紐解きが必要なもので、対応が困難であったり、対処法が明確でないもの。例えば、発生原因については起票時点で整理できていないことも多く、課題を紐解いていく作業を経て徐々に明らかになっていくものです。

影響チームについても、課題が紐解かれて初めて入力できるし、課題が細かいタスクに落ちたら影響チームが増えることもある。

つまり、課題というものの特性上、管理項目の値自体がとても流動的なものになる。こまめに管理項目の値をメンテナンスするコストと、管理項目を使った管理・分析作業の効果のバランスが取れるかどうかが、項目を設けるかどうかの判断ポイントです。

大規模案件では管理項目が必要になることもある

一方で、超大規模(予算規模100億を超えるような)のマルチベンダー(複数ベンダー)プロジェクトでは、管理項目をたくさん設けることもあります。

これは、プロジェクトの体制上、上下や横のステークホルダーが多くなるため、コストをかけてでも管理・分析をしやすくする必要があるからです。プロジェクト全体の報告書を作るときに、どんな課題が何件あるかを効率的にまとめるために、管理項目が必要になります。

つまり「項目は少ないほうがいい」と一律に言えるわけではなく、プロジェクトの規模によって最適解が変わる、ということです。

本当に必要な8項目に絞り込む

超大規模ではないプロジェクトにおいて、JQが現場での経験から推奨するのは、本当に必要な項目だけに絞り込むという方針です。課題管理台帳にぜひ入れたいのは、次の8項目。

基本情報の3項目「件名」「課題内容」「検討経緯」

件名は課題の概要を端的に表現し、課題内容には状況や背景を詳しく記載する。検討経緯には、その課題に対してどのような検討や対応を行ってきたかを時系列で記録する。この3つがあれば、課題の全体像を把握できます。

責任の所在を示す2項目「起票者」「担当者」

誰が課題を発見し、誰が解決の責任を持つのかを明確にすることで、課題が宙に浮くことを防ぎます。

時間管理の3項目「起票日」「完了期限」「ステータス」

いつ発見された課題で、いつまでに解決すべきか、現在どのような状態かを把握することは、進捗管理の基本です。

この方針のメリットは、起票と更新の負担が大幅に減ること。迷う項目が少なければ、課題を登録するハードルが下がり、チームメンバーが気軽に課題を共有できるようになります。台帳がシンプルで見やすくなるため、会議での確認作業もスムーズに。

項目が少ないことで、本当に重要な情報に注目が集まり、課題解決に向けた議論が活性化します。

削るべき項目とその理由

逆に、よく見かけるものの不要と考えられるのは、次のような項目です。

「優先度」は相対的に変わることがあり、時間経過でも変わる。高中低をメンテし続けるのが大変な割に使い道があまりありません。本当に優先度が高い課題は、会議で自然に話題に上がりますし、必要であれば「緊急」が分かるような目印をつけられるようにすれば十分です。

「発生工程」は起票日と内容でわかるため、別立てで管理する必要がない。課題自体の解消にも寄与しません。

「発生原因分類」は内容に書けばよいので、別出しは不要。前述の通り、起票時点で原因が整理できていないことも多く、課題を紐解いていく作業を経て「課題内容」項目に追記していく形で十分です。

「列を増やしたほうが分析できる」という発想で項目を足したくなった時、その列が、入力負荷とメンテコストに本当に見合うのかをまず疑ってください。

シンプル台帳を機能させる運用

この方法を実践するうえで、いくつか重要な注意点があります。

「課題内容」と「検討経緯」に書くべき内容を明文化する

項目を絞り込んだ分、これらの自由記述欄に情報が集約されます。そこに何を書くべきかを整理しておかないと、書いてほしい項目が漏れてしまう。

「課題内容」には最低限、何が問題なのか(事象)、なぜ問題なのか(影響)、どうなれば解決なのか(ゴール)を含める。「検討経緯」には、いつ・誰が・どのような検討を行ったか、どのような対応を実施したか、判断の理由や背景を時系列で追記していくルールにします。

記入例を複数用意してチームで共有する

ルールを文章で説明するだけでは、実際に何を書けばよいか迷うメンバーが出てきます。良い記入例を複数用意し、チームで共有することで、記入の質を一定に保てます。

項目を定期的に棚卸しし、必要に応じて見直す

シンプルな項目設計であっても、運用していく中で「やはりこの項目は必要だ」という気づきが生まれることがあります。その際は、チームで議論し、本当に必要かを吟味した上で追加することが大切。ただし、追加する際は同時に「削除できる項目はないか」も検討してください。

課題解決に集中できる台帳を目指す

課題管理台帳は、分類・分析のためのツールではなく、課題を一つひとつ確実に解決するためのツールであるべきです。

課題の本質は一つひとつ異なることが多く、「分類すれば効率化できる」というものでもない。項目を増やせば増やすほど、台帳の維持管理に手間がかかり、結果的に使いづらい・使えないものになります。

本当に必要な項目だけに絞り込むことで、起票と更新の負担が減り、チームが課題解決に集中できるようになる。

ただし、何でもかんでもシンプルにすればよいわけではありません。「課題内容」「検討経緯」といった自由記述欄に必要な情報を確実に記入するためのルールと記入例を整備することが、シンプル台帳の運用を成功させる鍵です。

「分類のための分類」ではなく「解決のための記録」という姿勢こそが、課題管理台帳を本当に機能させる鍵になります。

20列の台帳を眺めて「どの列を埋めればいいんだっけ?」と迷っているなら、まずその列のうちどれだけが本当に解決に寄与しているかを点検してください。

ご相談・お問い合わせ プロジェクトの要件が明確でなくても問題ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。