まずは実践させながら育てるアプローチ
リアルタイム議事メモ作成のスキルを新人PMに身につけさせるには、どうしたらよいでしょうか。
私がおすすめするのは、マインドセットの教育と実践指導の組み合わせです。
まず、新人PMに対して「PMはステークホルダーやメンバーをまとめてリードしていく立場である」というマインドセットを教えます。
たとえ会議の参加者に比べて知識で劣る部分があっても、自信を持った態度で会議を進める必要があるという意識を持たせます。
次に、会議の準備作業や、意見のまとめ方、課題やTodoの整理の仕方といった具体的な手法を指導します。
全く経験がないPMに対しては、何度か先輩やベテランPMがやっている姿を見てもらい、それを真似してもらうという形でOJT形式の指導を行います。
このアプローチのメリットは、明確なゴールイメージを持たせられることです。
そして、週2回の会議で新人PMがファシリテーションしながら議事メモを書くことを1ヶ月程度、つまり8回ほど経験すると、ある程度できるようになることが多いです。
また、最初のうちは会議中にも適宜フォローするようにします。
どういうところでフォローされたかを振り返ることで、どこが改善ポイントなのかわかるようになっていきます。
育成で見えてくる2つの壁
しかし、現場では育つのに時間がかかるPMが一定数います。
8回ほどの実践で習得できるという目安はあるものの、実際にはもっと時間がかかるケースもあります。大きく分けて2つのパターンがあります。
1つ目は、知識が足りないパターンです。リアルタイムで議事メモを書くには、一定レベルで内容を理解していることが前提となります。
議事メモとして、どんなことを経緯・決定事項として残すか、Todo・課題として残すかを判断する、つまり取捨選択が必要になります。
しかし、プロジェクトの背景やシステムの仕組みへの理解が浅いと、何が重要な発言なのか、何を記録すべきかの判断ができません。
このタイプは、会議中に「今の発言はどう記録すべきか」と迷うことが多く、結果としてメモを取るのが遅れ、会議のテンポが悪くなります。
この場合、知識習得と会議前の準備にしっかり時間をかけることで、徐々に解決していくと思います。
2つ目は、話を聞きすぎる、自分の意見を出すことや決断するのが苦手なパターンです。
このタイプは、参加者の発言をすべて丁寧に聞こうとするため、会議自体が発散しがちです。
その結果、メモとして残す内容も定まらず、会議時間も足りなくなりがちです。
さらに、議論を収束させるべきタイミングで「もう少し聞いてみよう」と判断を先送りしてしまい、決定事項が生まれません。
決定事項がなければ、議事メモに書く内容も曖昧になります。
この場合、例えば、何が決まったのかを明らかにする、論点を明らかにする、というような、ファシリテーションのコツを覚えることで徐々に解決していきます。
さらに、リアルタイム議事メモの最大の落とし穴は、書くことに集中しすぎて、ファシリテーションが疎かになることです。
参加者同士の会話を聞く・メモするだけになってしまい、リードすることを忘れてしまう状態に陥ります。
PMは会議の記録係ではなく、プロジェクトを前に進める意思決定を促す立場です。
どんな有識者でも間違えることはありますし、PMとして自分の考えを述べたり、気になった点を質問すること、内容を整理することが必要です。
また、ステークホルダーの意思を確認することを忘れてしまっては、会議の目的を果たせません。
議論が盛り上がり、メモを取ることに集中していると、肝心の意思決定者に「この方向で進めてよろしいでしょうか」という確認を取らずに会議が終わってしまうことがあります。
「一拍考えてから書く」という意識変革
JQでは、議事メモはポイントを絞って書くことを推奨しています。
会議のテンポを遅らせないためにも、リアルタイムで議事メモを書く場合は特におすすめです。
具体的には、以下のような項目に絞って書きます。
- 経緯を示す簡単なやり取り:誰が話したかが重要な場合は、発言者名も書く
- 決定事項:意思決定であれば、決定した人も分かるようにする
- Todo:タスク内容・担当者・期限が分かるようにする
- 課題:課題内容、担当者が分かるようにする
ここで重要なのは、「一拍考えてから、意味の通るわかりやすい文章で書く」という意識変革です。
最初のうちは、口頭での発言を、発言の都度そのままの語順で書いてしまいがちです。
例えば、「うーん、そうですね、やっぱりこの機能は来週までに実装したいですね」という発言を、そのまま「来週までに実装したい」とメモしてしまう。
しかし、それでは誰が何をいつまでにやるのかが明確ではありません。
発言を聞いたら一拍考えて、誰がいつまでに、を考えます。
この例であれば「〇〇機能の実装 ★Todo △△さん、3/10(金)期限」というように、意味の通るレベルで完結に書くことが望ましいです。
もし期限があいまいであれば、「念のため確認ですが、来週までというのは3/10(金)いっぱいという理解であっていますか?」と確認するようにしましょう。
具体的な期限は、触れてくれるなという空気を感じたとしても、恐れず、期限をはっきりとさせましょう。
期限を決めずに作業がずるずる遅れるほうがリスクです。
リアルタイムで議事メモを書きながら、このような小さい判断を随時していくことになります。
判断したことを明文化し、コンセンサスを取って前に進めていく。
この一連のプロセスを行うことが、PMがリーダーシップを取るということだと思います。
どう書けばよいか迷っている新人PMがいれば、その場で具体的にアドバイスすることが重要です。
「今の発言はTodoとして、担当者と期限を明確にして書きましょう」といった具体的な指示を出します。
また、あえて発言者に「つまりこういうことでしょうか?」と確認を求めることも有効です。
そういう確認の仕方をしてもよいことを教えていくことで、PMとしての立ち回り方が養われます。
会議の参加者も、PMが整理しようとしていることを理解し、協力的になってくれます。
このようにすることで、会議の議論を結論に導く、ファシリテーションスキルも鍛えられます。
リアルタイムでポイントを絞って書くことを通じて、その場で判断し、その場で合意を取るという習慣が自然と身につくからです。
PMの本質を見失わないために
この方法を実践する上で、いくつか重要な注意点があります。
まず、書くことに集中しすぎないことです。
リアルタイムで議事メモを書くことは手段であって目的ではありません。
PMの本質は、会議をリードし、意思決定を促し、プロジェクトを前に進めることです。
メモを取ることに必死になり、ただの書記になってしまっては本末転倒です。
参加者から見ると「このPMは何も考えていない」「ただ記録しているだけ」という印象を与えてしまい、PMとしてのリーダーシップを失うことになります。
次に、自分の考えを述べることを忘れないことです。
参加者同士の会話を記録するだけでは、PMとしての価値は発揮できません。
どんな有識者でも間違えることはあります。
PMとして気になった点を質問する、内容を整理する、自分の意見を述べるという行動が必要です。
例えば、週次の進捗会議で、開発チームが「問題ありません」と報告していても、進捗率と残タスクの数が合わないと感じたら、その場で「この数字だと、残り2週間で終わらないように思うのですが」と指摘する勇気が求められます。
最後に、ステークホルダーの意思確認を怠らないことです。
議論が進み、メモを書くことに集中していると、肝心の意思決定者の意向を確認せずに会議が終わってしまうことがあります。
会議の目的は合意形成と意思決定です。
会話を記録するよりも、その場で決めるべきことを決めることを優先すべきです。
「この件は〇〇さんの承認が必要ですが、承認でよいでしょうか」といった確認を適切なタイミングで行うことが、PMの重要な役割です。
人間が磨くべき領域とAIに任せる領域
輻輳した話を一定の方向性に導き、出席者の表情やその場の空気をみながら結論を出していくのは、人間にしかできませんし、PMとして身に着けるべきスキルといえます。
リアルタイム議事メモ作成は、この力が養われると考えています。
一方で、会議の発言などをすべて記録して文章として残しておくという意味では、AIに任せてよいと思います。
ただし、記録といってもすべてAIに任せればよいわけではありません。
PMとして何を記録すべきか、何が決定事項なのかを判断する力は、人間が持ち続けるべきです。
AIが生成した議事メモを鵜呑みにするのではなく、PMの視点でレビューし、必要に応じて修正することが求められます。
例えば、この発言は、文章として残すと表現が強すぎるので、あえてマイルドにしておこうという、戦術的な配慮も時には求められます。
完璧にすべてを記録することが目標ではありません。
会議を前に進めながら、必要な情報を的確に残していくという姿勢こそが、PMとしての信頼を築いていきます。
リアルタイム議事メモ作成は、単なる記録技術ではなく、プロジェクトをリードするための実践的なスキルと捉えて身につけることをおすすめします。