管理表には書けない「あの人の話」を、プロジェクトでどう扱うか

JQ NOTE ベースナレッジ
家庭の事情で勤怠に制約があるメンバー。退職の意向を持っているメンバー。メンバー間の人間関係の問題。技術知識やスキル・マインドが不足しているメンバー。──こうした課題は、プロジェクトの成否に直結する重要な問題です。

しかし、みんなが参照できる課題管理台帳には、載せることができません。仕様や技術的な課題は迷わず台帳に載せられるのに、人に関する課題だけは慎重な扱いが求められます。「Aさんのスキル不足により設計品質が低下している」と書いた瞬間、その台帳は地雷原になります。

私自身、大規模プロジェクトのPMO(Project Management Office:プロジェクトマネジメントオフィス)として、人に関する課題を「載せにくい」「言いづらい」と放置した結果、後日プロジェクトの進行に深刻な影響が出た経験があります。

その課題は、見えない場所で確実に進行していたのに、見える場所にはどこにも記録されていなかった。だから誰も対策を打てなかったのです。

この記事では、課題管理台帳に書けない「人」の課題を、どこで・どう管理すべきかについて書きます。前提として、プロジェクトメンバーが100人規模(1か月あたり)の大規模な開発プロジェクトを想定しています。

監修者・ライター情報

小原 和典

JQ 取締役/ディレクター

早稲田大学政治経済学部卒業後、アクセンチュアを経て現職。コンシューマー向けWebコンテンツ開発から事業会社向け業務システム開発まで、幅広いPMO支援実績をもつ。記事執筆、講演多数。スクラムマスター、PMP保有。

「載せられないけど一番重い課題」というジレンマ

課題管理台帳を運用していると、「この課題、台帳に載せるべきかな?」と判断に迷う瞬間があります。特に悩ましいのが、人の能力や状況に関する課題です。

万が一、人に関する課題が、見られてはいけない人に見られてしまうと、ぎくしゃくした関係が生まれるなど、プロジェクトに深刻なリスクを抱えることになる。一方で、課題として認識せずに放置すれば、いずれ大きな問題として顕在化する。

これがプロマネ/PMOが直面するジレンマです。

仕様や技術的な課題は迷わず台帳に載せられます。一方で、人に関する課題は「載せれば見られるリスク、載せなければ放置するリスク」の二択で、どちらも重い。

クローズドな課題管理台帳が機能しない理由

人の能力や状況に関する課題について、現場では、リーダーメンバーだけが見られるクローズドな台帳で管理することが多く見られます。

クローズドな台帳で管理する理由は明確です。みんなが参照できる課題台帳だと、特定の個人を責める記述にならないよう問題をはっきり書かなくなる。「Aさんのスキル不足により設計品質が低下している」とは書けず、「設計品質の向上が必要」といった曖昧な表現になります。

これでは本質的な問題が見えなくなり、適切な対策が打てません。

そこで、リーダー層だけがアクセスできる台帳を用意する。クローズドな台帳なので、センシティブな話題についても具体的に表現できる。「スキル不足」ではなく「SQLの基礎知識が不足しており、データ抽出に時間がかかっている」と書ける。

「コミュニケーション面に課題がある」ではなく「質問に対する回答が曖昧で、認識齟齬が頻発している」と明確に記述できる。問題が具体的になれば、対策も具体的に考えられるようになります。

しかし、クローズドな台帳で管理するアプローチには、深刻な問題点があります。

対象者ごとに公開範囲を変えた台帳が、バラバラに増えていく

例えば、リーダー間で共有するメンバー向け課題管理台帳があったとします。リーダーの一部に課題がある場合、その台帳はリーダー間で共有しているのでその課題は記載できません。結果、課題のあるリーダーを抜いた台帳を別に作ることになる。

台帳が分散し、メンバー昇格時の閲覧管理も煩雑になる

さらに上位のPM・PLメンバーだけが見られる台帳を作る、というように細分化していき、複数の管理台帳を運用することになり、管理が煩雑化します。

時間の経過とともにメンバークラスだった人がリーダーになりリーダーグループに参加すると、過去のリーダー管理台帳も参照できるようになりますが、その人に関するセンシティブな内容がないか気を付ける必要が出てくる。

結局のところ、大規模な開発プロジェクトでチームリーダーが多くいるような場合には、個人のスキル・状況に関する課題は台帳管理には向かない、と言わざるを得ません。

プライベートチャネルで「人の課題」を見える化する

そこで私自身が実践したのは、Slackのプライベートチャネルなどのクローズドなコミュニケーションで、人の課題を管理するという方法です。

ただし、この方法を実践するうえで、いくつか重要な注意点があります。

必要以上にクローズドな会話を増やさない

気を使いすぎてクローズドな会話が増えると、コミュニケーションパスが増え、煩雑で風通しが悪くなります。本当にクローズドにすべきかを常に問い直す必要があります。

判断軸は2つ。「その情報が公になった場合に、プロジェクトにマイナスの影響を与えるかどうか」と「その情報が公になることを、本人が望むか」です。

例えば、ネガティブな理由でキーマンが退職するという情報は、現場でのモチベーション低下を招きかねない。この場合は、限定メンバーでのクローズドな管理が必要です。一方、3ヶ月後に産休に入る、育休に入るというケースは、本人が嫌でなければ隠す必要はない。

むしろオープンに共有して、チーム全体で体制を考えるべきです。

DMではなく、プライベートチャネルで履歴を残す

DMだと過去のやり取りを見つけづらくなるため、プライベートチャネルで履歴を残しやすくします。メンバーは必要最小限に絞り、課題の対象者や影響範囲に応じて柔軟に設定します。

プライベートチャネルのメンバー構成を、定期的に見直す

プロジェクトの進行に伴い、課題の対象者や関係者は変わります。古いメンバー構成のまま放置すると、不適切な情報共有になるリスクがあるので注意が必要です。新しく加えたメンバーが、自分に関する過去のやりとりを目にしてしまうのも気まずいものです。

見える化こそが、課題コントロールの第一歩

JQが大事にしている考え方として、課題管理において最も重要な原則は、見える化されたものは解決することができる、ということです。逆に、プロジェクトにとって、見えていないものこそリスクです。

人の能力や状況に関する課題を「載せにくいから」「言いづらいから」と放置すれば、それは多くの場合、後日、プロジェクトの足を引っ張ることになります。一般的な課題管理台帳では、仕様や技術的な課題は載せやすいものの、人に関する課題は見落とされがち。

なぜなら、台帳に載せにくいから。結果として、プロジェクトの成否を左右する重要な課題が、一部の人が抱えたまま悪化していきます。

プライベートチャネル、対面も組み合わせて、適切な範囲で情報を共有し、センシティブな課題も具体的に議論できるようにすることで、問題を見える化し適切な対策を打つことができる。

ただし、何でもかんでもクローズドにすればよいわけではありません。「公になった場合にマイナス影響があるか」「本人が公開されることに拒否感はないか」という基準で判断し、本当に必要な場合にのみクローズドな管理を行う。

このバランス感覚が、プロマネ/PMOには求められます。

完璧な正解はありません。しかし、人に関する課題から目を背けず、その課題を見える化し、適切に管理するという姿勢こそが、プロジェクトを成功に導く鍵です。

「これは台帳に載せられないから……」と思った瞬間、その課題はあなたの頭の中だけで管理されることになります。そこから先に進めるかどうかが、プロマネ/PMOの真価を分けます。

ご相談・お問い合わせ プロジェクトの要件が明確でなくても問題ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。