すでに動いているプロジェクトに途中から参加したとき、「あ、このプロジェクトやばいな」と感じた経験はないでしょうか。
その判断材料の一つが、成果物やドキュメントの管理状態です。ルールに則って正しくフォルダに管理されていないプロジェクトは、表面上は進んでいるように見えても、内部では深刻な問題を抱えています。
ドキュメント管理の乱れは、単なる整理整頓の問題ではありません。プロジェクトの品質、スケジュール、そしてチーム全体の生産性に直結する重要な危険信号です。この記事では、ドキュメント管理が崩れたプロジェクトで何が起きるのか、そしてPM/PMOとしてどう対処すべきかを解説します。
ルールが定まっていない、または守られていない現場
プロジェクトの現場では、成果物の管理ルールがしっかり定まっていないケースが意外と多く見られます。特に中小規模のベンダーでは、ルール自体が曖昧なまま作業が進められることも珍しくありません。
大手ベンダーであれば、成果物ID、命名規則、バージョンルールなどを定めるのは当然のこととして行われます。しかし、ルールがあっても守られないという問題は、大手でも頻繁に発生します。
要件定義から基本設計へと、スケジュールがタイトな中でドタバタと資料作成を進めていくと、あっという間にルールが守られなくなるのです。目先の作業を優先せざるを得ない状況では、「とりあえず作って共有フォルダに入れる」という行動が繰り返され、気づいたときには管理が破綻しています。
このような状況は決して珍しいものではなく、多くのプロジェクトで日常的に起きている現実です。
ドキュメント管理の乱れが引き起こす深刻な問題
しかし、ドキュメント管理が乱れた状態を放置すると、プロジェクトに深刻な影響が及びます。
まず、品質面での問題が頻発します。 間違ったバージョンの要件定義書を見ながら設計書を作成してしまうことで、顧客の最新要件が反映されない成果物が出来上がります。また、本来インプットにすべき資料が見つからないため、ないものとして設計書を作成してしまうケースもあります。必要な前提条件や制約事項が漏れたまま次工程に進むことになるのです。
レビュープロセスでも混乱が生じます。 間違った資料をレビューしてしまった結果、レビュー後に「実はこれ最新版じゃなかった」という事態が発覚し、大きな手戻りが発生します。レビュー工数が無駄になるだけでなく、本来指摘されるべき問題が見過ごされるリスクもあります。
生産性の低下も無視できません。 資料を探すのに時間を取られて、本来やるべき設計作業や検討作業に時間を割けなくなります。「あの資料どこにある?」「これって最新版?」というやり取りが頻繁に発生し、チーム全体の作業効率が大幅に下がります。
これらの品質問題、手戻り、時間のロスが重なることで、プロジェクト全体の品質悪化、スケジュール遅延やコスト超過につながっていくのです。
PM/PMOが管理を放置してしまう3つの理由
ドキュメント管理の重要性は誰もが理解しているはずです。それなのに、なぜPM/PMOは管理が乱れた状態を放置してしまうのでしょうか。
第一に、PM/PMOのリソースが足りず、ドキュメント管理まで目が届いていない、という可能性があります。。 予算が数千万程度のプロジェクトによくあることですが、PM/PMOが要件定義作業や設計作業を行っている、または進捗報告をまとめるだけで手いっぱいになっていて、ドキュメント管理ルールの順守状況をチェックするところまで手が回っていないという状況です。
第二に、PM/PMOの権威が弱いという組織的な問題もあります。 「ルールを守ってください」と現場に伝えても、現場が言うことを聞いてくれない、従ってくれないという状況です。PM/PMOの立場や権限が明確でない場合、こうした事態が起きやすくなります。
第三に、PM/PMO自身のドキュメント管理に対する意識が弱いケースです。 プロジェクトマネジメント経験が少ないPM/PMOの場合、ドキュメント管理がしっかりなされないと様々な問題が起きるということを理解していない可能性があります。例えば、過去の案件は、いずれも規模が小さく、ドキュメント量も多くなく、厳密なルールがなくてもなんとかなってしまったような場合は、ドキュメント管理の優先度を下げてしまうかもしれません。
これらの理由は複合的に作用することが多く、一つを解決しただけでは根本的な改善にはつながりません。
体制面からドキュメント管理を立て直す
ドキュメント管理を健全に保つためには、まず体制面からアプローチする必要があります。
最も重要なのは、現場のルール順守状況をモニタリングする担当を決めることです。 そして、守られていないという報告を受けたPMが、現場に期限を設定して指示をするという、当たり前のサイクルを回すことが必要です。
この当たり前のことができないのは、PM/PMOの体制が十分ではない可能性があります。一定規模、具体的には数億円以上のプロジェクトの場合、PM/PMOに作業者を兼ねさせてはいけません。プロジェクト全体のQCD(Quality, Cost, Delivery:品質、コスト、納期)を守るために、計画や管理に特化させるべきです。
具体的には、最低3人体制で役割を分担することをお勧めします。 実効的な計画を立てて推進できるPMが1人、状況を取りまとめて管理できるPMOが1人、そして会議調整やルールチェックなどアドミン的な作業をする人が1人です。
ルールチェック程度であれば、新人や経験の浅いメンバーでも対応可能です。重要なのは、誰かがその役割を明確に担い、継続的にチェックする仕組みを作ることです。PM/PMOがすべてを抱え込むのではなく、適切に役割を分担することで、ドキュメント管理を含めたプロジェクト全体の統制を保つことができます。
シンプルでわかりやすいルール設計が鍵
体制を整えると同時に、ドキュメント管理のルールそのものも見直す必要があります。複雑すぎるルールは、かえって守られなくなる原因となります。
フォルダ構成については、細かく切りすぎないことが重要です。 作成中フォルダ、レビュー中フォルダ、顧客レビュー中フォルダなど、様々なフォルダに成果物が分散すると、どれが最新なのかわからなくなります。FIXするまでは1つのフォルダにだけ成果物を入れておき、常に一覧で見られるようにするべきです。
バージョン管理についても、細かくルール設定しないことがポイントです。 ver0.1_01のようなバージョンとリビジョンを細かく決めたファイル名は、かえって混乱の元になります。だいたいわけがわからなくなるのです。
それよりは、最新のファイルは「成果物ID_画面設計書(機能名).xlsx」のように固定の名称にしておきます。更新をかけるときに、過去ファイルに「成果物ID_画面設計書(機能名)_YYYYMMDD断面_01.xlsx」のようにバージョン情報を付けるとよいでしょう。
そうすることで、過去の経緯を追うこともできますし、常に最新のファイルがどれかが一目瞭然になります。このシンプルさが、ルールを守り続けるための鍵となります。
プロジェクトの基盤を守る姿勢
ドキュメント管理は、プロジェクトの基盤です。この基盤が崩れれば、どれだけ優秀なメンバーが集まっていても、プロジェクトは混乱に陥ります。
管理が乱れる理由は、スケジュールのタイトさや体制の不備、PM/PMOの経験不足など様々です。しかし、いったん乱れ始めると、品質問題や手戻り、生産性の低下が連鎖的に発生し、プロジェクトに深刻な影響を及ぼしえます。
対策のポイントは、体制面でのアプローチです。PM/PMOを作業者にせず、最低3人体制で役割を分担することで、ルールの順守状況を継続的にモニタリングできる仕組みを作ることが必要です。
そして、ルール自体もシンプルに保つことが重要です。フォルダを細かく切りすぎず、バージョン管理も複雑にしすぎない。最新ファイルが一目でわかる状態を維持することで、現場がルールを守りやすい環境を整えるべきです。
ドキュメント管理の乱れは、プロジェクトの危険信号です。この信号を見逃さず、早期に手を打つことが、PM/PMOとしての重要な役割なのです。