プロマネに求められるスキルや知識とは?

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監修者・ライター情報

下田 幸祐

JQ 代表取締役社長

早稲田大学政治経済学部卒業後、アクセンチュアを経て株式会社JQを設立。大手企業の新規事業の戦略立案、スマホアプリや大規模システム開発のプロジェクトマネージャーを歴任。AI・IoTを活用したサービス開発などのDX案件、デジタルマーケティング基盤構築、大規模開発案件に実績多数。自社Webサービスの企画・開発・運営も行う。著作に「本当に使えるDXプロジェクトの教科書」(共著/日経BP社)。記事執筆、公演も多数。

「PM / プロジェクトマネージャー(以下プロマネ)にはどのようなスキルや知識が必要なのか?」この疑問はITプロジェクトに携わる多くの人が抱くものです。プロマネとしてプロジェクトを成功に導くためには、単なる管理能力だけでなく、幅広いスキルと知識が求められると思いませんか?

プロマネは、日々変化する状況の中で、チームをまとめ、期限を守り、品質を確保するという本当に難しい役割を担っています。そんな状況で、優れたプロマネに求められる6つの重要なスキルと知識について、JQの視点から詳しく解説します。

PMに求められる基本姿勢

プロマネには、複数の視点を持つことが求められます。具体的には「鳥の目」「虫の目」「魚の目」の3つの視点が重要と考えています。JQでは、これらの視点を効果的に活用することで、プロジェクトを俯瞰的に捉え、細部まで注意を払い、将来を予測することが可能になると考えています。

鳥の目:プロジェクト全体を俯瞰的にとらえ、タスクやシステム構成を大局的に把握する視点

虫の目:個々人の作業内容や状況を具体的に理解するなど、細部まで注意を払う視点

魚の目:将来を予測し、次に何をすべきか、どのようなリスクがあるかを洞察する視点

これらの視点を持つことで、プロマネは状況に応じた適切な判断を行うことができます。

また、プロマネには3つの重要なコミットメントが求められます。

  1. 進行させることへのコミットメント:段取りをする、解決する、決めるなどプロジェクトを常に前に進めることに注力する
  2. 内容へのコミットメント:要件や仕様、アーキテクチャを理解する
  3. チーム・顧客へのコミットメント:チームのパフォーマンス最大化、顧客の期待値・不安に対応することに注力する

優れたプロマネは、コンサルティングのようなスタイルでマネジメントを行います。このスタイルとは、ロジカルシンキングを重視し、提案型の姿勢を持ち、常に新しい知識を取り入れる柔軟性を持っていることを指します。

システム開発では、同じプロジェクトは一つとして存在しません。システムの構成、チーム体制、制約条件が異なるため、柔軟に対応する必要があります。プロジェクトは刻一刻と変化する生ものであり、状況に応じた判断が求められます。

このため、知識や経験だけに頼るのではなく、ロジカルシンキングによる分析的なアプローチが不可欠です。多くの関係者が関わるプロジェクトでは、積極的に問題解決を提案する姿勢が重要であり、技術の進化が激しい中では常に学び続ける姿勢が求められます。

システム構造の理解

基本姿勢を理解した上で、次に必要なのはシステム構造の理解です。ITプロジェクトのプロマネには、開発対象となるシステムについての理解が不可欠です。システムの構造を把握していないプロマネがいる状況を想像してみましょう。おそらく、正しく状況は把握できず、議論にもついていけないし、また、課題の解決もできないでしょう。

プロジェクト全体の段取りを行うためには、システムを構造的に理解する必要があります。システムは大きく以下のレイヤーに分けて捉えることが効果的です。

アプリケーションレイヤー

  • フロントエンド:ユーザーインターフェースや操作画面
  • バックエンド:ビジネスロジックやデータ処理、インターフェースの仕組み
  • アプリケーションアーキテクチャ:いわゆる方式。フロントやバック、共通機能などの構成と連携方式

データレイヤー

  • データベース:データやデータの関係性
  • ファイル:どのファイルがどこにどう存在するか

インフラレイヤー

  • ネットワーク:システム間の通信基盤
  • 開発環境:開発用のインフラ構成
  • 実行環境:本番運用時のインフラ構成
  • 運用環境:システム運用のためのインフラ構成

これらのレイヤーがどのような役割を持ち、どのように連動して動作するかを理解することは、計画立案や進捗管理、課題解決において不可欠です。

システム構造の理解があれば、プロジェクトの各フェーズでどのような作業が必要かを的確に判断し、適切なリソース配分や対応を行うことができます。

開発プロセスの知識

プロマネが計画を立てるためには、システム開発のプロセスの理解も不可欠です。システムは要件定義からリリースに至るまで、複数の工程を経て完成します。各工程でどのような作業が行われ、どのような成果物が必要になるのかを把握していないと、適切な計画は作成できません。

テスト工程の違いも重要です。単体テスト、結合テスト、システムテスト、ユーザー受入テスト(UAT)それぞれの目的と進め方は異なります。また、データ移行やインフラ移行、業務移行などの移行作業では、リハーサルから本移行までのステップバイステップの計画が求められます。

開発プロセスはシステム構造と密接に関連しています。

アプリケーションレイヤーは、全体の開発プロセスの主軸となります。アプリケーションが要件定義からリリースに至るまで、フロントエンド、バックエンド含めどのように構築されるかを把握することが重要です。

データレイヤーは、アプリケーションレイヤーに追随して進行します。要件定義では概念データモデル、基本設計では論理データモデルの設計が必要になるなどです。

インフラレイヤーは、非機能要求・要件定義からシステムアーキテクチャ設計、システム運用設計を経て、最終的に物理的なインフラ設計や運用設計に落とし込まれていきます。その後、環境構築、システム運用機能の開発などが行われます。インフラはアプリケーションが動作する環境でもあるため、アプリケーション側のプロセスにあわせてスケジュールを組む必要があります。

このように、開発プロセスを全体像として理解し、各レイヤーの特性も踏まえた上で計画を立案することで、プロジェクトを確実に進めることができるのです。

計画実務スキル

システム構造と開発プロセスを理解した上で、次に必要となるのが計画実務スキルです。知識があるだけでは適切な計画は作成できません。計画実務とは、プロジェクト全体の計画書を作成し、各フェーズの作業計画書、各週次スケジュールやWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成)を作成することを指します。

優れた計画とは、作業するメンバーが迷うことなく業務を遂行できる計画です。そのために、どのような計画書が必要であり、どのような構成で整理すべきかを理解し、プロジェクトの状況に応じて適切な内容を整理する必要があります。

例えば、基本設計の計画立案においても、顧客やベンダーによって工程の内容は大きく異なります。基本設計を要件定義の延長線上として捉えるケースや、効率化のために基本設計書と詳細設計書を統合するケースなど、プロジェクトごとに最適なアプローチは異なります。

プロジェクト体制によっても管理プロセスは大きく変わります。マルチベンダー体制では、情報共有と統制のためのルール作りが特に重要になります。適切な計画を作成しないと、あっという間にプロジェクトのコントロールが効かなくなってしまうのです。

このように、プロジェクトの状況や体制に応じた適切な計画を立案するスキルが、計画実務スキルとして求められます。

管理・運営実務スキル

正しくプロジェクトの状況を可視化し、プロジェクトメンバー間でのコミュニケーションを円滑にさせ、定義したプロセスを確実に遂行していくためには、管理・運営実務のスキルが必要になります。

例えば、管理実務のうち、進捗管理では、進捗報告書を作成する必要がありますが、どのような目次・レベル感で何を報告すれば良いでしょうか。報告をする対象が役員等のマネジメント層か、プロジェクト内のマネジメント層か、現場の人たちかによっても、報告内容・レベル感は変わってきます。

運営実務のうち、会議体運営1つとっても、プロジェクトによってやり方は異なります。議事録をしっかり書くべきか、またはメモ程度でよいか、プロジェクトや会議体によっても異なります。また、プロジェクトによってはステークホルダーへの関与の仕方も異なります。手厚く報告・説明が求められるケースもあれば、形式的な報告のみで良いケースもあります。

このように、プロジェクトの内容や状況、体制によって、本質的に何が重要かを見定めながら、管理・運営のやり方を柔軟に変えていけるようなスキルが、管理・運営スキルとして求められます。

推進実務スキル

プロジェクト進行中には必ず課題が発生し、リスクが検出されます。システム間やベンダー間のスコープが不明確な課題、大幅な変更による影響分析が必要な課題、遅延や品質トラブルなど、様々な課題やリスクが発生します。

システム内部やベンダー内で解決可能な課題やリスクは担当者に委ねることができますが、プロジェクト全体に影響する課題については、プロマネが積極的に解決に取り組む必要があります。

このような状況で必要となるのが、課題解決やリスク対策のスキルです。事実関係の明確化、抽象的な問題の具体化、細かすぎる議論の抽象化、論点分析・整理、具体的なアクション整理、なの、ロジカルシンキングスキル、さらにシステム構造や開発プロセス、計画などその他の実務スキルを総合的に用いて、一定の方向性を見出すスキルが求められます。

まとめ

優れたプロマネになるために必要な6つのスキルと知識について解説してきました。これらをどのように実践で身に着けていけばいいでしょうか。

実践で身に着けるためのポイント

  1. まずは基本姿勢から:3つの視点(鳥の目、虫の目、魚の目)と3つのコミットメントを意識し、コンサルティングスタイルでチームをリードしてみる
  2. システム構造を理解する:関わっている、または過去に関わったプロジェクトのシステムについて、アプリケーションレイヤー、データレイヤー、インフラレイヤー、それぞれの設計成果物を読み込んで、関係性の理解を試みる
  3. 開発プロセスを俯瞰する:関わっている、または過去に関わったプロジェクトにおいて、要件定義からリリースまでの全工程のアプリケーションレイヤーの成果物、また各工程の計画書を読み込んで、各工程でなぜこの粒度で成果物を作る必要があるのか、その理由や背景を考えてみる。
  4. 構造的な計画を立ててみる:システム構造やプロセスを意識して、構造的・網羅的に作業整理をしてみる。そのうえで、誰が何をすべきか、いつまでに何をすべきかなどを整理してみる。
  5. 情報の整理整頓を心掛ける:進捗・課題・リスク・品質・変更などの情報を常に一覧化し、粒度をあわせる、不足情報を補うなど常に整理整頓を心掛けてみる。
  6. 1つの課題を解決してみる:人にふるだけでなく、自分で1つの課題を紐解いて解決してみる

これらのスキルや知識は、個別に重要というよりも、組み合わせて活用することで真価を発揮します。どれか1つに取り組むというよりも、全体的に少しずつ取り組んでいくと良いでしょう。

ご相談・お問い合わせ プロジェクトの要件が明確でなくても問題ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。