ECと店舗を繋ぐ架け橋となる、顧客単価と顧客数向上を実現したアプリ開発
私がJQで担当したプロジェクトの中で、特に「やって良かった」と感じているのは、2017年から約1年間携わった大手小売業の公式アプリ開発プロジェクトでした。
元々、クライアントにはアプリがありましたが、それはECサイトへの入り口、つまり商品購入のための単純な機能を持つものでした。それに対し今回のリニューアルでは、ECの売上強化に加え、店舗との連携、いわゆるオムニチャネルを強く意識し、双方の利用を促進、その相乗効果によって全体の売上拡大につなげることが、クライアントの大きな期待でした。
この期待を実現するために、当然「顧客単価の向上」と「顧客数の向上」の両側面から、このスマートフォンアプリでできることの企画検討を行いました。1つ目の「顧客単価の向上」に向けては、アプリ内で、ユーザーが自分の欲しい商品に自然に出会えるよう、レコメンド機能を強化することを目指しました。具体的には、当時の技術トレンドも踏まえ、ITを活用して”使いやすいUI”を持った”サクサク動くアプリ”で、”お客様一人ひとりに合った商品の提案”の実現を追及しました。
2つ目の「顧客数の向上」に向けては、クライアントが扱う商品はコモディティ化しやすい商品であったため、各商品の魅力の訴求を追求するのではなく、アプリを通じてクライアントのファン、つまりリピーターをいかに増やすかを追求していきました。そこで、まずはECだけでなく店舗でも積極的にアプリを使ってもらう流れを作り、店舗利用者をアプリ利用者へとつなげることで、結果的にアプリを利用してくださるお客様の数を増やしていく仕掛けを作りました。また、流入したお客様がアプリ内部で回遊し続け、またアプリを開きたいと思われるような”企画コンテンツのリッチ化”も目指しました。
JQは開発ベンダー側のプロマネチームという位置づけで、私含めて3名で参画しましたが、全体プロマネ業務は私が担当しました。具体的にはクライアント、ECサイトの保守ベンダー、そして我々開発ベンダーという3つの関係者と調整しながら、全体の企画整理、開発計画の立案、運営を行う立場でした。
結果として、様々な調整はありましたが、企画からリリースまで約1年という期間で、予定通りにアプリを世に出すことができました。リリース後に大きなトラブルもなく、品質面でも安定しており、店舗での利用促進という当初の狙いもしっかりと実現できたと考えています。
複雑な課題を乗り越えプロジェクトを完遂させられた理由
このプロジェクトは、いくつかの点で難しさがありました。まず、クライアント内部の意見調整です。事業会社にはありがちですが、クライアント内の一部部署の影響力が大きく、当初のミッションであったオムニチャネル強化よりも、その部署の要望を優先するような意見が出がちでした。私は、要望の良し悪しではなく、当初の目的・アプリの期待に常に立ち返りながら、各部署の要望のバランスを取り、プロジェクト全体の方向性を維持・調整することに苦心しました。
次に、ステークホルダーの多さと意見の多様性です。アプリ企画を進めるにあたり、経営層、EC担当者、店舗担当者、マーケティング担当者、記事コンテンツ担当者、コールセンター担当者、情報システム担当者、そして開発ベンダー側の企画担当者など、約10名の関係者がそれぞれの立場から多くの意見やアイデアを出してくださいました。
活発な議論は良いことですが、中にはミッションと合わないものや、他のアイデアと両立しないものもあり、それらを整理し、プロジェクトの目的に沿って取捨選択していく必要がありました。経営層と担当が同席すると、どうしてもパワーバランスに偏りが出ます。このような難易度の高い体制の中での調整にとても苦労しました。
スケジュール面でのプレッシャーも大きかったです。マーケティング関連のプロジェクトは、どうしても早期リリースが求められる傾向にあります。しかし、最新のマーケティング関係のアプリは、開発難易度も高くなっており、品質も加味するとクライアントが想定する以上に開発に時間がかかるのも現実です。プロマネとして、実現可能なスコープを見極め、現実的なスケジュールを立案し、関係各所と調整することは、非常にハードだったと記憶しています。
企画と計画が確定した後の開発フェーズでは、開発を担当したベンダーならではの特性から難しさを感じた点もありました。彼らは新しい技術やアーキテクチャを積極的に試したいという意欲が高く、また、開発を通じて得た技術的ノウハウや資産を自社内で横展開したいという考えも持っていました。これは素晴らしいことですが、プロジェクトの遅延リスクにも繋がるため、そのバランスを取ることが求められました。
これらの困難を乗り越え、プロジェクトを完遂させるために重要だったことは、まず関係者の意向を丁寧に汲み取ることでした。それぞれの立場や考えを理解し、頭ごなしに否定するのではなく、常にプロジェクトの本来のミッションに立ち返って議論を整理し、進むべき方向性を明確にすること、その決定によるメリデメやリスクを全員で共有しながら、実現可能な着地点を探り、プロジェクトメンバー全員が前向きに進められる土壌づくりを心がけました。
そして、クライアントを取り巻く環境の変化、技術的な挑戦、品質トラブルといった様々なリスクを事前に洗い出し、それらを考慮に入れた妥当かつ最速の計画を立てること、計画遂行時に起きる様々な課題に対しては、解決に向けてメンバーの間に入って調整役を果たすことも、プロマネとして不可欠な役割でした。
困難な状況下でもチーム全体のモチベーションを維持し、メンバー一人ひとりに寄り添いながら、一歩ずつでも着実に前に進めていく姿勢が、最終的な成功につながったのだと思います。
醍醐味は、自身の役割をやり切ったという静かな達成感を得られること
私にとってのプロマネの醍醐味とは、「自ら計画を立て、その実現に向けて自分が先導役となり、仲間と共にやりきること、そしてその結果として達成感や自信が得られること」に尽きると考えています。
これは単に計画を作るだけでも、計画を実行する作業者になるだけでもありません。プロマネは、計画の立案から実行まで、その両面に責任を持ちます。理想を描きつつも、現実的な制約を理解し、そのギャップを埋めながら最後まで責任を持ってプロジェクトを導く役割なのです。
また、プロマネは自分一人で手を動かすのではなく、異なる立場や専門性を持つ多くの仲間たちに作業をお願いし、彼らが直面する課題に寄り添いながらプロジェクトを進めていきます。時にはメンバーのモチベーションが下がってしまうこともありますが、そうした人間的な側面にも配慮し、チーム全体が前向きに進めるよう働きかけることも、プロマネの重要な役割だと考えています。
多くの苦労を乗り越えて、計画を最後までやり遂げたとき、「自分の役割を果たしきった」という静かな達成感、その余韻に浸ることができる。これこそがプロマネならではの感覚ではないでしょうか。
誰かに褒められる言葉が欲しいわけではなく、「計画通りに、困難を乗り越えてやりきった」という事実そのものが、大きな自信となり、また次の挑戦への糧となるのです。このプロジェクトで言えば、「自分がいたからこそ、最大限の成果を最短のスケジュールで実現できたのではないか」という確かな手応え。この感覚こそが、プロマネとしての大きなやりがいであり、醍醐味なのだと実感しています。
プロジェクトマネージャーが、深く、幅広く、成長を実感できる場所
JQは、プロジェクトマネージャーの醍醐味を存分に味わえる、最適な場所だと私は考えています。
その理由はいくつかあります。まず、JQが手掛ける案件の規模感です。もちろん、私が以前在籍していたような大企業と比較すれば、案件の規模自体は小さいかもしれません。彼らが数百億円規模の案件を扱うのに対し、JQの案件は数億円から、大きくても数十億円程度です。
しかし、この規模感だからこそ得られるメリットが大きいのです。役割が細分化されすぎず、縦割りになることもありません。そのため、プロマネはプロジェクトの初期段階から最後のリリースまで、全体を見渡しながら一貫して関与することができます。たとえプロジェクトの途中から参加したメンバーであっても、クライアントや他のメンバーと近い距離で仕事を進めることができ、プロジェクト全体への貢献を実感しやすい環境だと言えるでしょう。
役割が限定されないということは、プロマネが担当する業務範囲が多岐にわたるということです。自ら幅広い領域について考え、判断し、プロジェクトを進めていく必要があります。これは大変な面もありますが、裏を返せば、それだけ多くのことを短期間で吸収し、自身の知識や経験として「地肉」にできるということなのです。この濃密な成長体験を、比較的短い期間で得られるのがJQの案件の特徴です。
さらに、JQではプロマネ一人に案件を丸投げするようなことは基本的にありません。経験豊富なディレクター陣が常にプロマネに寄り添い、サポートする体制が整っています。そのため、自己流で手探りするのではなく、体系化されたプロマネスキルを、適切な指導を受けながら実践の中で着実に身につけていくことができます。
このように、JQでは、プロジェクト全体を俯瞰し、自ら考え、行動することで得られる手触り感のある経験と、体系的なスキルアップを両立できる環境があります。だからこそ、プロマネとしての成長を実感しやすく、その仕事の醍醐味を深く味わうことができる会社なのだと考えています。