生成AIによってプログラミングや単体テストといった作業が不要になる、結果としてエンジニアの多くが不要になると言われてきましたが、それが現実になり始めています。Salesforceが2025年のエンジニア採用を停止すると公表したニュースは、それを示す象徴的な出来事です。これまでプロジェクトマネジメントの一部として行ってきた、議事録作成やToDo更新、進捗、課題、指摘・QA、不具合の集計といった定型業務もAIに置き換わっていくことになります。単純作業が消えた未来において、プロジェクトマネージャーやPMOに求められる役割はどのようなものになっていくでしょうか。
参考記事:AIがあるので、今年はエンジニア採用やめました Salesforce(https://ascii.jp/elem/000/004/258/4258412/)
これまで:作業者を多く抱えるプロジェクト体制
プロジェクトの現場では、これまで一定数の「作業者」が必要でした。PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の作業者は、会議の議事録を作成し、ToDoや課題管理台帳を更新し、資料を適切なフォルダに適切なファイル名で格納し、進捗状況を確認してWBSに反映し、指摘事項やQA、不具合の集計を行うといった定型業務を日々こなしてきました。
これらの作業は、一つひとつは単純でも、数が多いので作業量はそれなりにありました。特に大規模案件では、週に何本もの会議が開かれ、その都度議事録を起こし、決定事項やToDoを抽出し、台帳に反映し、関係者に共有するというサイクルが続きます。進捗確認も同様で、各チームから集めた情報を整理し、WBSに反映し、遅延箇所を可視化するという作業は、開発する機能数が多いと、結果として膨大な作業量になります。
エンジニアも同様に多くの単純作業をこなす必要がありました。詳細設計書を見ながらコーディングを行い、単体テストコードを作成し、テストを実行して不具合を起票するという流れは、設計書がしっかりしていれば、ある程度は機械的に進められる部分が多いと言えます(実際は、設計書がしっかりしていないことが多いので単純ともいえないのですが)。
また、テスターという作業者も必要でした。結合テストにおいて、テストケースに従って打鍵し、結果を記録し、差異があれば不具合として報告するという作業が必要でした。
こうした「作業者としてのPMO」と「作業者としてのエンジニアやテスター」は、プロジェクトを回すために不可欠な存在でした。一方で、かなり多くの作業者を抱えなければいけないプロジェクトは、以下のような問題も抱えていました。
- 作業者の確保そのものがプロジェクトのボトルネックになることがありました。特に繁忙期や複数プロジェクトが重なる時期には、必要な人数を揃えることが難しく、それが遅延につながる、または既存人員の負荷をあげる要因になっていました
- 作業者のオンボーディング、教育、ケアに時間を取られ、本来プロマネが行うべき計画立案や課題・リスク対策、ステークホルダーとの調整などの作業に割ける時間が圧迫されることも少なくありませんでした。
- 作業者のスキルや経験にばらつきがあると、品質やスピードに差が生じます。コードの書き方、テストの進め方などの作業であっても、レビューや指摘・指導を行うなどの手間も必要でした。
- 人に起因するミスやコミュニケーションロスが発生しやすい構造でした。作業者が多ければ多いほど、情報共有の手間が増え、認識齟齬や連絡漏れ、作業漏れといったヒューマンエラーのリスクが高まります。このリスクを軽減するために朝会や夕会などを行っているプロジェクトは多いと思います。
これから:AI時代のITプロジェクトは精鋭で運営する体制へ
生成AIの進化によって、こうした「作業らしい作業」は急速に自動化されつつあります。議事録は音声認識と生成AIによって自動生成され、ToDoや決定事項は文脈を理解して自動抽出されます。それに基づいて課題の内容も自動で更新されます。WBSの更新も、上流工程はまだ難しいですが、実装工程以降であれば、実装や単体テスト、結合テストなどアウトプットが明確な作業については、自動的に行えるようになるでしょう。
コーディングにおいても、詳細設計書があればコードが自動生成され、単体テストコードも自動生成され、テスト実行自体も自動で行われます。結合テストのテストケース生成、打鍵や結果の記録、不具合の起票といった作業も、自動化の対象になっていくと考えられます(2025年12月時点では、業務システムにおけるE2Eテストの自動化はまだまだ難しいところがある)。
こうした変化によって、作業者としてのPMOやエンジニアは大幅に不要になると思います。Salesforceがエンジニア採用を停止したのは、まさにこの流れを象徴する動きです。人手を前提としたプロジェクト体制は、AIを前提とした体制へと移行していくでしょう。
レビュー人材を中心とした体制へ
ただし、すべての作業者が不要になるわけではありません。
AIに指示を与え、AIの作業をレビューする人材は変わらず必要になります。
議事録も、会議内容をそのまま議事録に落とせばいいというわけでなく、必要に応じて抽象化したり、具体化したりなど、プロジェクトの進行や状況に応じた記述の調整が必要だったりもします。
また生成AIが生成した文章は、一見すると問題なく見えますが、よく見ると主語述語関係がおかしかったり、前後の流れがおかしかったりするので、そのまま使えるということはありません。
文章という点では、上流工程においても、AIは成果物作成において多くの作業を担ってくれますが、本当の意味で、要件や仕様を理解しているわけではないため、やはり人間のチェックが必要です。
またコードも同様です。8~9割は問題ないコードを書いてくれますが、AI自身で解決できないエラーが発生すると、人間が指示をする、または直接修正する必要があります。
レビュー人材はプロンプトの設計や管理という役割も担うようになります。プロンプトエンジニアという言葉もありますが、実際はプログラミングだけでなく、ドキュメンテーションなど様々なところでプロンプトを作ることになるので、レビュー人材がプロンプトも設計、管理するということになると思います。
これらのレビュー人材+AIでプロジェクトは回っていきます。
新人は育成対象としてプロジェクトに入り、人とAI両方から学んでいく
この変化の中で、育成はどうなっていくのでしょうか。
これまでは新人を作業者としてプロジェクトに入れることができました。作業がたくさんあったからです。そして必要な作業をしているので、顧客企業に請求もできていました。
今後は、新人を作業者としてプロジェクトに入れる必要はありません。しかし、レビュー人材たちも年を取っていくので、永遠に第一線では働けないため、後進を育成する必要があります。そのため、新人は、作業者というよりも、育成対象としてプロジェクトに入れていくことになると思います。
AIのアウトプットは正直、新人よりもレベルが高いため、新人は、レビュー人材から観点を学びつつ、AIのアウトプットからも学んでいくことになると思います。
プロマネは人とAIを統合してマネージする存在へ
顧客だけでなく、レビュー人材と育成対象者がいる時点で、プロマネは変わらず必要となります。
人がいて、担当領域が分かれた瞬間に、段取り=計画は必要になりますし、また横のスコープ調整も必要になります。みんなが自発的に動いてくれるのが理想ですが、そうはいかないのが現実ですので、プロマネとして捌いていく必要があります。
作業者の大幅な削減は、プロジェクトの推進方法そのものを変えます。これまでのように「人数で乗り切る」という選択肢が取りにくくなり、AIをどう活用するか、どの範囲をAIに任せるか、どの部分を人が握るかという線引きが、プロジェクト計画の重要な要素になっていくと思います。プロマネは、AIがどこでどう使われているのかの全体像を把握し、人とAI間のスコープ調整も行っていくことになるでしょう。
まとめ:AI時代のITプロジェクトはこれまで以上に成果を生み出せるように
これまでプロマネは、作業者の確保の手間、作業者の品質コントロールやケア、コミュニケーションなどに時間を取られてきたわけですが、それらの手間がかなり削減されます。
また、作業者が減ることによって、プロジェクトの進捗・品質リスクも低減されることが予想されます。
プロマネは、これまで以上に段取りの整理やAIを含めての品質コントロール、顧客調整・折衝、価値向上のための提案などに時間を割けるようになるのではないかと思います。
レビュー人材も同様です。極端な例ですが、作業者のスキルレベルの問題で、アウトプットの質がいまいちな場合にそのリカバーに時間がとられていたところ、それがなくなるので、より良い機能とは何かを考えることができます。
その結果、例えばこれまで泣く泣くあきらめてきた機能を拡充できたり、より優れたUXを提供できたりするようになるかもしれません。またプロジェクトの成果がでるまでのスピードも速くなるため、質の向上だけでなく、量としても多くの成果を生み出せるようになるのではないかと思います。
作業者が大幅にいらなくなるということで、AIに仕事が奪われた、と不穏な雰囲気もないわけではないですが、世の中全体でみたら、よりDXが進んでいくという良い面も多くあるのではないかと思います。