お客様情報の持ち方、活用方法の仕組みを抜本的に変える構想に取り組む、トヨタ・コニック・プロ社

アルファ本部 BANQ&LINQ部 部長 渡邉 弘毅 氏
牧島:
渡邉様のミッションを教えてください。
渡邉氏:
トヨタ・コニック・プロ株式会社のアルファ本部のBANQ&LINQ部の部長として、13人の部のメンバーと共に、部の名前にあるBANQ&LINQという構想を実現し、社会実装していくことをミッションとしています。
牧島:
今回、弊社が支援させていただいた、BANQ&LINQとはどのようなコンセプトの取り組みなのかについてお聞かせください。
渡邉氏:
これまで多くの企業は、同意を取った上で、お客様の情報を自社の情報資産として、データベースで保管するということをしてきました。これに対し、BANQはお客様の情報の所有権はお客様にあるという思想をベースにしたシステムの方式をこれまで検討してきています。これまでも情報銀行という取り組みがありましたが、これは企業が情報を保管するという意味で、BANKとあらわすことができます。しかし、私たちの取り組みはBANKにあらず、ということでBANQと名付けています。
また、情報を活用する場合は、様々な情報をつなげて、意味を見出す必要があります。つなげるというのは英語でLINKですが、私たちはデータとデータを、会社を超えてつなげ、価値を紡いでいくという独自のコンセプトを掲げ、情報の活用基盤の名前をLINQと名付けました。
ソーシャルROIの最大化に舵を切ったことで生まれた、社会を変える2つのプロジェクト

牧島:
コンセプトを企画したところから、現在に至るまでどのような経緯があったかをお聞かせください。
渡邉氏:
BANQ&LINQは、コンセプトからスタートした取り組みです。そのため、具体的にどんなユースケースで何を提供するのか、それを定義するところから始める必要がありました。
まずは様々な人にアイデアや意見を聞くところから始めました。データの分散管理の仕組み、認証の仕組みやデジタル身分証の技術方式など、技術的なアイデアや情報が多く集まる結果となりました。
しかし、これらはすべてセキュリティやガバナンスの手段であり、誰に、何のためにこの仕組みを提供するのか、この重要な問いには答えられていませんでした。
そして、BANQ&LINQの具体的なユースケースを見出すために、試行錯誤的に、様々な新規サービスを立ち上げることになりました。多い時には20程度の新規サービスを立ち上げるプロジェクトが同時並行で動いていました。
しかし、この試行錯誤をする中で、私たちの取り組みは、本来、社会基盤を作り変えていくことを目指すべきではないかと考えるようになりました。
多くの企業は、新規事業を立ち上げる際に、ROI(投資対収益率)と呼ばれる数値を短期間で最大化することを目指します。
一方、私たちは、短期的な利益を求めるだけでは社会は変わらないのではと考えました。そこで、投資に対して、社会的な便益の最大化を目指す、つまりソーシャルROI(社会的投資収益率)の最大化を目指すという方向に舵を切りました。
この方針を軸としたところから、BANQ&LINQの目指すべき方向性がはっきりし、より具体的なユースケースが見えてきました。
牧島:
どのようなプロジェクトが生まれたか、また各プロジェクトの規模について、お聞かせください。
渡邉氏:
現在は、大きく2つのユースケースをプロジェクト化し、取り組んでいます。
1つは、自動車登録時に必要となる各種手続きを効率化する、というものです。
自動車は購入され、納車までの間に、様々な書類が作成されます。購入者だけでなく、自動車メーカー、自動車の販売店、様々な団体、行政機関など多くの関係者が、全体で毎年、何千万もの書類を作成します。購入者や車庫の情報、車の情報という源流となる情報は同じにも関わらず、膨大な量の書類が作成されるのです。
自動車メーカーや販売店、団体、行政がそれぞれで書類を作成しているので、どこか1つの組織がこれをやめよう、変えようとしてもできるものではなく、業界全体・プロセス全体で変えていかなければなりません。まさに短期的なROIを求める一企業には取り組みづらい課題で、社会全体で、長期的に変えていくことが求められます。
このプロジェクトには、今のPoC段階において、プロジェクトの実務的な関係者だけで40~50人おり、ステークホルダー含めると100人を超える関係者がいます。仕組みを作る会社だけでも4社で進めていますし、会社、団体など15以上の組織も関わっています。
もう1つのユースケースは、モビリティの情報と健康情報を組み合わせるというものです。マイナンバーカードには、健康保険証情報だけでなく、運転免許証情報も任意で紐づけることができます。しかし、運転免許証情報をマイナンバーに紐づけた場合のユースケースが現段階では不足していると思います。運転免許証は長い人は5年で更新、一定年齢を超えると3年に1回の更新が必要です。
しかし、3年や5年の間に健康状態は変化していきます。健康診断の情報や日々の血圧測定の情報、行動記録などから、その人の健康状態を判断できれば、運転の安全性が高まります。事故を防ぐことも大事ですが、健康を維持して楽しく運転を続けるための取り組み、と考えています。高齢者の方は、自身で行動を続けられるようになることで、急激な認知機能の衰えを防ぐことができます。結果として医療費や介護費用、移動支援費用の削減につながるのではないかと期待しています。
この取り組みには、プロジェクト関係者が30~40人おり、会社、病院、団体など9以上の組織が関わっています。
組織の立ち上げ期に求められるのは、客観的でありつつも、同じ目線で親身に寄り添ってくれるパートナーとしてのPM

牧島:
どのような課題感・期待値を下に、BANQ&LINQのプログラムマネジメント業務を弊社にご依頼いただいたかをお聞かせください。
渡邉氏:
複数のプロジェクトを束ねる身としては、20程度もあるプロジェクトの関連性を発見し、発散させるべきところと収束させるべきところの整理が重要でした。白黒はっきりつけられない場合もあります。ある程度、可能性を信じて動かすプロジェクトと、実績や成果を出すべきプロジェクトのメリハリをつけた運営をしたいと考えていました。
まずは、新しいことに一石を投じることが重要で、長期的思考と短期的思考のバランスを取りつつ、お金や人を使って動かしていくことが求められていました。
このような状態の中では、多くのコンサル会社が行うような画一的なマネジメントはワークしないと思っています。しかし、JQ社はこの状態にしっかりと寄り添ってくれました。例えば、関係者も多く不確実なプロジェクトなので、当然、計画通りにいかないことが多いのが実態です。この時、画一的なマネジメントでは、「どうするんですか?スケジュールが変わったのはなぜですか?」と詰めてくるイメージですが、JQ社は、柔軟に計画を見直すなど、伴走をしてくれていました。発注された仕事だからやりますではなく、常に私たちと同じ目線・視点で、自分ごと化して推進をしてくれ、また、最後までやり切ろうとする気持ちの強さがあると感じます。
牧島:
御社、または本取り組みの各案件には様々なコンサル会社、SIerが参画されていたと思います。その中で弊社をプログラムマネジメントの事務局や個別プロジェクトのPMOとして選んでいただいたポイントなどがあればお聞かせください。
渡邉氏:
これまでお付き合いしてきた他のコンサル会社は、客観的な目線でのアドバイスや、資料作成をしてくださいました。私たちの思考の整理のためには助かる部分はあるのですが、JQ社は、自分たちの視点だけでなく、「コニックであれば、こう考えるんじゃないですか?」という、私たちの目線で整理をしてくれます。そして、今必要なことは何か、後回しにしてもいいことは何かを見極めて、的確に伝えてくれます。
また、役員の反応や意見を共有すると、親身になって、どうしていくか、相談にのってくれます。
他のコンサル会社の人に「社長は何と言っていますか?」と聞かれると悲しい気持ちになることもあります。なぜかというと、現場をリスペクトしない態度を感じるからです。手っ取り早く、上位者とのみ話をして、上位者と意思決定をしてしまいたいという雰囲気を感じるのです。一方、JQ社は、現場や組織内の考えやプロセスを尊重し、皆が納得し、進められるように調整してくれます。そのため、JQ社に「社長は何と言っていますか?」と聞かれると、しっかり共有しようという気になります。
今回のプログラムマネジメントや各案件のPMOについては、他社からも提案をいただきました。価格はリーズナブルでケイパビリティの資料がわかりやすい会社もありました。しかし、我々の答えは、どんなことでもしっかり話を聞いてくれて、次の週には悩みを構造化して、アクションを整理してくれるJQ社の一択でした。
プロセスやルールの整備だけでなく、人間関係までマネジメントするJQ

牧島:
弊社のご支援において、「助かった」「価値を感じた」ポイントがあればお聞かせください。
渡邉氏:
JQ社は、プログラムマネジメントと各プロジェクトのPMO両方を担当しており、組織運営もサポートしてくれました。
現在は収束されて2つに絞られていますが、多いときには20ほどのプロジェクトがあったので、プログラムマネジメントとして、各プロジェクトの進捗報告ルールなどの管理ルールを整備してくれたり、プロジェクト間の関連性を構造的に整理してくれたりしました。また、プロジェクトの統廃合も一緒に進めてくれました。
組織運営という点では、責任の所在を明らかにするための意思決定体制の整理、意思決定のプロセスの設計も行ってくれました。新任の方への情報共有をしたり、また人間関係のトラブルを察知して対応してくれたりと人のケアも行ってくれました。
価値を感じたという点では、私自身が、JQ社からプロジェクトマネジメントのノウハウを学ぶことができたと思っています。例えば、スケジュールの作り方、ステークホルダーの整理の仕方、会議体設計、リスクの検知と対策などです。実際、これらのノウハウを取り込んだ計画書を自分自身で作成していたりします。
チームメンバーの、組織の壁を超える越境行動と、会社の長尺思考が社会を変える

牧島:
社会基盤の変革という、とてもチャレンジングな取り組みをしていますが、着実に成果をあげている印象です。御社のどのような姿勢や行動が成果につながっているでしょうか?
渡邉氏:
私たちは協調領域と呼んでいますが、民間企業や省庁、自治体、それぞれ単独ではできないことに取り組んでいます。それぞれの間の共通の課題を見つけ、その課題解決に取り組むイメージです。また、商習慣や前提条件など、既存の枠組みに囚われず、新たな視点、アプローチでの解決を目指しています。
これができている要因の1つは社員の特性があげられると思います。越境行動が得意で、知らない分野にもどんどん進んでいける姿勢を持っています。できないことを理由に諦めることなく、調整ごとも面倒に思わず取り組んでいます。また、社会的な課題を解決するというミッションを背負って、官民共想型のアプローチで進めることを、チーム全体が理解し合っています。このプロジェクトへの共感力というものも重要な特性です。
また、社会的ROIの最大化を目指すこれらの取り組みができているのは、トヨタ・コニックグループの方針によるところが大きいと思います。業界のためや社会のために行ったことは、長期的に見ればトヨタにもリターンがある、という長尺思考の基にした投資も行っていくという方針を持っています。目先の利益を追い求めると、社会課題の変革はできないと思いますが、長尺思考でバックキャスト的にやるべきことを考え、投資をし、変革にコミットできる私たちのグループはすごいと思っています。
牧島:
渡邉さんがリーダーとして意識していることはありますか?
渡邉氏:
私自身は『開き直る』というアプローチを取っています。
ゼロからイチを生み出そうとすると、それを聞いた多くの人は否定的な反応をします。または、できない理由を並べてくることが多いです。壁にぶつかると、内部で『ほら、みたことか』と反応されることもあります。ステークホルダーごとに言葉や目標設定が異なり、すぐに成果が出るわけではありません。パートナー同士のフラストレーションが募り、犯人探しが始まってしまうこともあります。これは残酷で、残念な状況です。世界初の試みなので、失敗に直面したとしても、『開き直ろうぜ』ということをプロジェクトのメンバーには伝えました。
『自分たちは難しい仕事をしているから当たり前』『自分たちがやらなかったら、世の中、誰がやるんだよ』という気持ちが根底にあります。
信頼できるパートナーと共に、制度やしがらみを打破し、社会実装を目指していく

下田:
各プロジェクトの現在地と今後の展望をお聞かせください。
渡邉氏:
1つ目のプロジェクトに関しては、現在、PoCの実施に向けて、開発を行っているところです。 2つ目のプロジェクトについても、某自治体とのPoCに向けた準備を開始しています。
いずれも、省庁からの期待値はとても高くなっており、複数の民間企業や省庁、システムが連携する日本で初めての試みとして進められています。法制度の確認や制度の適用、システム仕様の決定等に向けて取り組んでいます。
自治体様からは、トヨタ・コニック・プロ社は越境行為を積極的に行ってくれるので『ありがたい』と言われています。他の自動車メーカー様からも、『OEMの垣根を越えて、業界全体のために取り組んでいるんだね』と言われ、トライアルを一緒に進めたいという声も頂いています。
今後はいずれのプロジェクトも社会実装まで進めていきたいと思っています。