若年層を獲得し、事業成長に寄与した音声配信アプリの全面リニューアルプロジェクト

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背景

ある音声配信アプリが、サービス開始から10年が経過し、事業としての大きな転機を迎えていました。この期間中に他社の音声配信アプリが急速に増加し、競争環境が激化したことに加え、新しい若いユーザーの獲得とライトユーザーの継続率向上が課題となっていました。人間の嗜好は時代と共に変化するものですが、事業成長に向けた改革が必要でした。

特に深刻な課題となったのは、YouTubeショートやTikTokなどの短編動画コンテンツが主流となる中で、従来の長時間音声コンテンツ中心のUX(User Experience:ユーザー体験)では若年層のニーズに対応できないことでした。この状況を打開するため、若年層も含めたユーザーの興味・関心に応じた体験を目指すこのプロジェクトは、会社の将来を左右する最重要案件として位置づけられました。

3年間で若年層ユーザーの獲得を実現し、次の事業成長フェーズに移行することが至上命題でした。短時間で試し聞きや自分の興味・関心に応じたコンテンツと出会う体験の導入、現行アプリの全面リニューアル、さらに開発体制の内製化まで含めた包括的なプロジェクトが求められました。10年の技術的負債を解消しながらも、現代的なUXを実現するという点も特筆すべき点だと思います。

プロセス

POC期間での仮説検証と短納期開発

私がプロジェクトに参画したのは、若年層のニーズを取り入れるための新しいUX(User Experience:ユーザー体験)/UI(User Interface:ユーザーインターフェース)の検討段階で、開発チーム側のプロマネ兼スクラムマスターとしてのポジションでした。この段階では、新しいユーザー体験が実際に若年層の利用に結びつくかどうかの検証が最大の課題となっていました。

正直なところ、POC(Proof of Concept:概念実証)用アプリを6週間という短納期でリリースしなければならないという厳しいスケジュールの中で、初めてのチーム、新しいメンバーという環境でのプロジェクト進行は本当に困難を極めました。人間が作業している以上、新しいチームでは必ず認識のすり合わせには、一定期間の時間が必要なものですが、そんな余裕はありませんでした。そこで、プロダクトマネージャー1名、エンジニア4名という少数精鋭体制で、アジャイル開発手法を徹底的に活用しました。例えば、チーム内の衝突や意見の違いを早期に解決するため、デイリースタンドアップでの密なコミュニケーションをとること、進捗を止める課題の可視化をすること、それをクイックに解決することを重視して、進行しました。

この一連のプロセスを通じて、6週間という期間内でPOCアプリのリリースを実現できただけでなく、その後3週間の受入テスト期間で、短時間音声の試し聞きや興味・関心に応じたコンテンツと出会う体験 の有効性を実証することができました。これが次のフェーズでの本格開発に向けた重要なベースとなったのです。

大規模開発における仕様変更対応とアジャイル活用

リリースまでの開発フェーズでは、 新しい基盤で全面リニューアルという大きな方針転換が発生しました。現行の仕様理解や外部連携システムとの接続などの新規の作業が必要になり、さらに1年間の開発期間延長という大幅な計画変更が必要になり、結果として、プロジェクトが大型化した中で、プロジェクト全体を推進することになりました。

この状況下で、途中でUIを大きく変更するデザインの変更要求が発生しました。通常のウォーターフォール開発では受け入れが難しいような要求でしたが、バックエンド機能に影響を与えない見た目の変更に絞り込み、特定のスプリント期間でUI部分のみを集中的に見直すことで、全体のスケジュールに影響を与えることなく変更対応することができました。アジャイル開発の柔軟性を活かして変更に対応することができたと思います。また、開発期間中から継続的にベータ版をステークホルダーに配布し、受入テストを複数回実施することで、プロジェクトの後半に大きな仕様変更を発生させないようなプロセスも取り入れました。大量に発生したフィードバックについては、「ユーザーへの価値提供」という揺るぎない評価軸をもって優先順位付けを行い、対応するものを絞り込むなどの対応を行いました。

これらの取り組みにより、計画通りにリリースすることができました。アジャイル開発の真価を発揮できたプロジェクトになったと思います。

内製化推進と開発チーム移行管理

リリース後は、クライアントの内製化ニーズに対応し、外部開発体制から内部開発体制への移行を推進する役割を担いました。事業会社が自社内で開発チームを持ち、継続的な改善と機能追加をコントロールできる体制構築の支援が求められていました。

この段階で最も困難だったのは、技術的な引き継ぎだけでなく、アジャイル開発の文化継承でした。文化の継承は数値化できない分、本当に難しいものでした。具体的には、ユーザーファーストの意識、変化への柔軟な対応、2週間スプリントでの継続的な価値提供といった、アジャイル開発に不可欠な文化的要素を新しいチームに浸透させる必要がありました。また、これまで構築してきたプログラムやノウハウを引き継ぐ過程で、開発メンバーからの引き継ぎに対する抵抗感もあり、人間関係を含めた丁寧な調整が求められました。

半年間の移行期間を通じて、新しい内製開発チームの採用支援を行い、技術的な引き継ぎの完了、アジャイル文化の定着を実現することができました。結果として、クライアントが自立して継続的な改善を行える内部開発体制の構築に成功し、プロジェクトの最終目標を達成することができました。

結果

プロジェクトを予定通りに完遂することができました。特筆すべきは、リリース当初は、既存アプリのユーザーからの反発もありましたが、1年後には若年層ユーザーの獲得が進み、事業成長に直結する成果を実現できたことです。変化への抵抗は人間として自然な反応ですが、継続的な改善により理解を得られたのではないかと考えます。短時間音声の試し聞きや興味・関心に応じたコンテンツと出会う 体験という新しいUXの有効性と、アジャイル開発による継続的な改善の成果といえるのではないでしょうか。

プロジェクトの成功要因として、以下の点が挙げられます。

  1. 専任プロダクトマネージャーの配置:クライアント側に決定権限を持つ専任担当者を配置し、現場レベルでの迅速な意思決定を可能にしたこと。これはプロジェクト成功の必須要件です。
  2. アジャイル開発手法の徹底活用:大きな変更要求に対しても柔軟に対応し、継続的な受入テストによって品質向上を実現したこと。変化に対する柔軟性こそが、アジャイルの真価といえるでしょう。
  3. エンジニアとの良好な関係構築:タスクの整理や優先度管理を通じて、開発チームが働きやすい環境を提供し続けたこと。良い人間関係をつくることがプロジェクト成功の基盤であることを改めて実感しました。

結果として、大きなユーザー基盤を持つアプリの大型リニューアルというプロジェクトに関わり、要件定義からリリース、そしてエンハンス開発までをプロマネの立場で担うことが出来ました。それだけではなく、クライアント、ベンダー、プロジェクトメンバーなど関係者全員から高い評価を頂くこともできました。特にうれしかったのは、プロジェクトメンバーから「プロマネの概念が変わりました」と言われたことです。ただタスクを投げるのではなく、ともに考え、推進していく姿勢が評価された瞬間でした。このプロジェクトで得たアジャイル開発の知見と内製化支援の経験は、今後の類似プロジェクトにおいても大いに活かせるものとなりました。

ご相談・お問い合わせ プロジェクトの要件が明確でなくても問題ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。