準備を完璧にしても、会議は噛み合わない
会議推進の基本は、準備にあります。アジェンダを作成し、会議の目的を明確に定め、議題を漏れなく列挙し、議題ごとのゴールを設定する。時間配分と主担当者を決め、議論する内容を事前に読み込む。アジェンダや資料は前日までに送付し、参加者の準備も促す。
前回の宿題があれば釘を刺す。
これらをすべてやっても、会議は噛み合わなくなることがあります。なぜか。
第一に、ファシリテーター側の理解力の問題です。討議事項の論点を深く理解していない場合、オープンクエスチョンを全体に投げて、全員が沈黙する事態が起きる。相手の意図を汲み取れず、答えがズレることもある。
アジェンダは用意できても、論点が理解できていなければ、議論は前に進みません。
第二に、参加者側の問題です。特定の参加者の話が長すぎると、複数の論点を混ぜて話を複雑にする。こうした発言を整理できないと、議論は噛み合わなくなります。
その結果、決めるべきことが決まらないまま次回に持ち越され、課題リストだけが肥大化していく。多くの課題は進捗に影響するため、結果的にプロジェクト全体の遅延につながります。
さらに深刻なのが、会議で決まらなかったことが立ち話など別の場で決まり、共有もされないまま進んでしまうケース。「そんな話は聞いていない」という後出しジャンケンが頻発し、トラブルになります。
ファシリテーターに欠けているもの
これらを防ぎ、会議の中で一定の結論に導くために、ファシリテーターに最も必要なのはロジカルシンキングの力です。
ロジカルに考える力がなければ、参加者の発言のポイントを理解できないし、複数の論点が混在していても整理できない。逸れた議論を軌道修正する判断もできません。
MECE、グルーピング、So What、Why So、抽象化と具体化──こうしたロジカルシンキングのポイントを知り、実践の場で繰り返し使ってみることが必要です。
そのうえで、会議の場で取るべきアクションは2つあります。
相手の意図を理解できているか、口頭で確認する
相手の発言が長い場合は、ある程度の長さに区切りながら確認していく。復唱もおすすめです。「今のお話は、〇〇という理解で合っていますか?」と確認することで、自分の理解が正しいかを検証できます。
このとき押さえるべきはSo What(つまり何を言いたいのか)。YESかNOか、A案かB案か、誰が何をするのか──So Whatを明示することで、「いや、そうじゃない」「そのとおり」と議論が深まっていきます。
要点を文字に起こして、その場で共有する
ホワイトボードや画面共有を使って、議論の要点を文字に起こしていく。相手も基本的には主義主張があり、それを周りに理解してもらいたいので、正確な表現で言い換えてくれたり、構造化に協力してくれたりします。
ここでもSo Whatを明らかにすることを意識する。So Whatを導くためには、抽象的な議論の具体化や、Why So(背景・原因・理由・目的)の理解が求められますが、いきなり全部はできない。
まずはSo Whatが何なのかを考えるところから入るのがおすすめです。
このアクションには、もうひとつ大きなメリットがあります。ファシリテーターと参加者が協働で議論を整理できる、ということ。一方的に進行するのではなく、参加者の力を借りることで、議論の質が高まり、皆で結論を出すという主体性も生まれます。
自分が主体的に議論したことは、後になって「聞いていない」「そうじゃない」と言いづらくなります。
実際、経験の浅いプロマネにこの2つのアクションを実践してもらったことがあります。最初はメモの質も低く、リズムも出なかったのですが、繰り返すうちに会議中にしっかり論点が整理され、議論の質が高まっていきました。
会議内で結論を出せるようになり、会議中の要点メモは多少の体裁調整だけで議事メモの代替として使えるため、会議後の作業時間も短縮できました。
このアクションが裏目に出る瞬間
ただし、このアクションを実践するうえで、最重要の注意点があります。
それは、相手の話を遮らずに最後までしっかり聞くこと。
口頭確認や文字起こしは、参加者の協力を引き出すための手法です。しかし、相手の話を途中で遮って確認したり、勝手に要約したりすると、相手は「自分の話を聞いてもらえていない」と感じてしまう。協力的なスタンスを引き出すには、まず相手の話を最後まで聞くことが大前提です。
話し終わってから、「今のお話を整理すると、こういうことでしょうか」と確認するのが正しいアプローチ。特に有識者や上位者の発言を途中で遮ることは、関係性を一発で損なうリスクがあります。
話が長くても、論点が複数混在していても、まずは最後まで聞く。そのうえで「重要なポイントがいくつかあったと思いますので、整理させてください」と切り出してから確認していく。焦って整理しようとして相手の話を遮ると、かえって協力が得られなくなります。
ファシリテーターは議論を効率的に進めるだけでなく、参加者全員が納得できる場を作ることも役割です。傾聴の姿勢を、外してはいけません。
準備とロジカルシンキング、そして傾聴の姿勢
JQが現場で大事にしてきた考え方として、会議を推進できるファシリテーターになるためには、3つの軸が必要です。
準備をしっかり行う
この会議で何を議論すべきか、どんな内容を扱うのかを事前に押さえる。アジェンダ・資料の事前共有まで含めて、当日の議論の質を決める前提を整える。
ロジカルシンキングを鍛え、実践する
会議では論点が輻輳しがち。議論を整理する力を養いつつ、口頭で要点を確認する、その場で要点メモを書いて共有する、という形で参加者を巻き込みながら結論に導く。
傾聴の姿勢を持つ
リスペクトをもって相手の話をしっかり聞き切る。同じ結論でも、しっかり聞いてもらえたと感じられるかどうかで、納得感はまったく変わります。
完璧なファシリテーションの正解はありません。しかし、会議でしっかり結論を導こうという意思を持ち、そのための準備と努力をし、参加者にリスペクトを持って巻き込んでいくこと──この姿勢は、どの現場でも普遍的に効きます。
「誰か発言してください」と言いたくなったら、その質問の前に、自分が論点を理解しているか、So Whatを言える状態か、もう一度疑ってください。ファシリテーターが整理できていない議論は、参加者にも整理できません。